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PTSD(心的外傷後ストレス障害)の方が休職や復職をする際の手順や仕事の探し方について

更新日:2022年07月12日

自分が生死に関わるような危険に遭遇したり、他の人が死傷する現場を目撃するなどにより強い恐怖を感じた場合、それが心のキズとなって何度も思い出して、当時と同じような恐怖を感じるストレス障害がPTSDです。世界保健機構(WHO)が行った世界精神保健調査によると、日本で一生のうちにPTSDになる人は、1.1~1.6%となっていますが、20代から30代前半では3.0~4.1%と若い人が多く発症する病気です。PTSDになっても、ほとんどは1~2か月で自然に治ると言われていますが、一方で半数以上の人がうつ病や不安障害などの精神疾患を合併します。また、人によってはアルコールへの依存や摂食障害になることもあるため、早期に適切な治療を受けることが大切です。では、PTSDになった人が仕事を続けていく際には、どのような点に気をつけたらよいのでしょうか。PTSDの症状が重く休職する時や復職の手順、転職の際の仕事の探し方についても紹介します。

PTSDとは?

PTSDは、心的外傷後ストレス障害(PostTraumatic Stress Disorder)の略です。震災などの自然災害や事故、暴力や虐待などの犯罪被害など強いショックや恐怖感を感じる体験をすることで、大きな精神的ストレスを受けて、それがこころのダメージ(トラウマ)となるのが原因です。時間が経っても記憶に残り何度も思い出して、その経験に対して強い恐怖を感じ、さまざまな症状を引き起こします。

 

PTSDの主な症状

PTSDの主な症状には、次の3つがあげられます。

 

侵入症状

こころのダメージ(トラウマ)となったできごとに関する不快で苦しい記憶が、突然蘇ってきたり、繰り返し悪夢となって思い出されます。具体的には、「トラウマとなった場面が、シーンを選ばず頭に何度もくり返し浮かんでくる」「トラウマとなった場面そのもの、またはその時に感じたショックに関連する悪夢に何度もうなされる」「トラウマとなった場面が再現されたように感じたり、その時の感覚が急によみがえる (フラッシュバック)」「トラウマを連想させるものに対して、心理的な苦痛を感じたり、体の激しい反応が起こる」などの症状がみられます。

 

回避症状と麻痺

トラウマとなった場面に関する記憶を思い出してしまうような人や場所、状況、会話などを避けたり、なるべく考えないようになったりします。感情の麻痺があると、無力感や無価値感が生じて、まわりの人とは違う世界に住んでいると感じたり、感情や関心が少なくなり、喜ぶことや人を愛することができなくなります。

覚醒症状

常に危険が続いているような張りつめた状態で、「寝付けない」や「すぐに目が覚める」などの睡眠障害、「警戒心が強くなり些細なことで驚いたり怖がったりする」「イライラや怒りを感じて、暴力的になる」などの症状がみられます。

PTSDと診断されたら仕事はどうする?

PTSDは、ストレス障害の種類で他に「急性ストレス障害」と「適応障害」があります。原因となるストレスや症状はさまざまですが、仕事をする上では次のような点に注意しましょう。

 

できるだけ今のまま働き続けたい場合

PTSDなどのストレス障害は、原因となっているストレスがはっきりしているため、原因から離れることや、解消することで症状が改善されることが多いと言われています。そのため回復することを考えると、ストレスをためないように、仕事を休んで療養するのが理想です。しかし、できるだけ今のまま働き続けたい場合には、次のような点に気をつけましょう。

 

業務量を調整する

PTSDでなくとも、職場でストレスを感じる原因で、多くあげられるのは「仕事量が多すぎる」ことです。PTSDの原因となるストレスが職場に無くても、仕事が忙しすぎる、残業が多い、休日が取れないなどの状況では、ストレスがたまってしまい精神的に不安定な状態になります。会社の上司に相談して、回復するまで業務量を調整してもらえるようにお願いしてみましょう。

またストレスをためないようにするには、日ごろ十分な睡眠と健康的な食事を摂ることが大切です。特に睡眠は、疲労を回復する上で重要です。睡眠が不足している状態では、脳の機能が低下することでストレスに弱くなります。また集中力がなくなることで仕事にも日常生活にも支障をもたらします。

PTSDの症状には、寝付けない、やすぐに目が覚めるなどの睡眠障害があります。夜によく眠ることができない、悪夢にうなされて途中で起きてしまうなど、睡眠での悩みがある場合には医師に相談してみましょう。

 

職場環境を調整する

PTSDは、自然災害や事故、暴力や犯罪被害などにより、強いショックや恐怖感を感じたことによって受けた精神的ストレスが、トラウマになるのが原因です。現在の職場環境で、トラウマとなった場面と同じ状況になることがなくとも、人や場所、状況、会話などによりトラウマとなった原因の場面の記憶を思い出してしまうような場合には、精神的に不安定になったり身体的な症状が現れる可能性があります。職場環境によりストレスを感じるようであれば、環境を調整してもらうよう上司に相談してみましょう。

 

ストレスの原因から離れる

PTSDでは、トラウマとなった場面をあえてイメージしたり、避けていた記憶を呼び起こすきっかけをあえて作るようにして、思い出しても危険はない、怖くはないということを感じ取っていく「持続エクスポージャー療法」という治療法がとられることがあります。しかし、この治療法は専門の医師が立会いのもとで、今の状況が安全であることを理解してもらったうえで行う必要があります。十分に経験を持たない人が、PTSDの人に記憶の再体験をうながすと、かえって不安が強まってしまい症状が悪化することにもなりかねません。まずは、PTSDなどストレス障害の診断を受けたら、まずストレスとなる原因から離れ、医師の指示に従うようにしましょう。

 

自分に合ったストレス対処法を見つける

PTSDを発症した人の半数以上が、うつ病や不安障害などを合併しています。PTSDの回復を早めたり、これらの病気の合併を防ぐには、PTSDの原因となったストレス以外にもストレスをためないことが重要です。とは言え、働いている状況では仕事中はもちろん、通勤や仕事以外の時間でもストレスを感じることが多くあります。ストレスをためないようにするには、自分に合ったストレス対処法を見つけることが大切です。

本やインターネットでは、さまざまなストレス解消法が紹介されていますが、大切なのは自分に合っているかどうかです。自分に合っていない方法では、かえってストレスを感じることになりかねません。睡眠をとる、美味しいものを食べる、旅行に行くなど自分がストレスを解消できると思うものを見つけるようにしましょう。

 

PTSDで休職したい場合

PTSDの症状が重く、仕事を続けるのが難しいと感じたら休職をするという選択肢もあります。

 

休職とは

休職とは、何らかの理由により就労が難しくなった場合などに、雇用契約を維持したまま、長期間会社を休むことです。休職は、労働基準法などの法律で定められた制度ではなく、企業がそれぞれ決めている制度のため、休職制度がない会社もあります。また休職制度があっても、企業によって適用される条件などはそれぞれ異なります。まずは、自分が勤める会社に休職制度があるかどうか就業規則で確認してみましょう。

 

休職するときのポイント

休職を申請する際には、まずは主治医に相談しましょう。休職に必要な手続きは企業によって異なりますが、病気やケガを理由に休職を申請する際にはほとんどの場合、医師の診断書が求められます。主治医にPTSDの症状によって、仕事を続けるのが困難であることを伝えて、休業が必要な期間についても診断書に書いてもらうようにお願います。診断書が用意できたら、職場の上司に休職の相談をして、休職の期間や有給休暇を使用するかどうか、休職に向けた仕事の引継ぎなどを打ち合わせします。なお休職期間中は、雇用契約は維持されても給料や賞与は支給されないため、その期間の生活費などについて事前に考えておく必要があります。

PTSDで休職中の過ごし方

休職中は、PTSDの治療や療養を行うことで、心身の回復を最優先で考えることが大切です。症状が回復してきたら、復職に向けた準備を行います。PTSDによって休職する人は次のような点に気をつけましょう。

 

ストレスのない過ごし方をする

休職してすぐの時期は、心とからだを休ませる時期です。ストレスのない生活を過ごすには、規則正しい食事と睡眠が必要ですが、この時期は生活のリズムをあまり気にせず、ゆっくりと休むようにしましょう。PTSDの症状により心身ともに疲れている状況では、判断力が低下しています。この時期に重要な判断を下すのは避けるようにしましょう。まずは症状の回復を優先させて、ある程度回復してから復職など今後のことについて考えるようにします。

休職中は時間に余裕があることから、飲酒や喫煙の増加など生活習慣の悪化に気をつけるようにします。またカフェインは、一時的に気分を爽快にしますが、不安のある時には反対に不安を強めることがあるので注意が必要です。

リワークを活用する

休職によってPTSDの症状が十分に改善されたら、リワークなどを活用して復職に向けた準備を始めましょう。リワークとは「return to work」の略です。精神疾患などが原因で休職している人に対して、職場復帰に向けたリハビリテーションを実施する機関で行われているプログラムで、医療機関や地域障害者職業センター、企業内で行われています。

プログラムに沿って決まった時間に施設へ通うことで、会社へ通勤することを想定した訓練になります。また実際の仕事に近いような内容のオフィスワークや軽作業、復職後にPTSDが再発しないためのストレス対処法や疾病教育などの心理療法も行われます。

 

職場への「報・連・相」を忘れずに

会社に連絡を取り過ぎるのもストレスとなるため良くありませんが、最低でも月に1回は電話やメールなどで現在の状態について、会社の人事部や上司に連絡をするようにしましょう。また症状が改善して、主治医から仕事をするのが可能であると診断がされたら、復職の時期について会社と相談しましょう。

 

PTSDで復職する時のポイント

休職は法律で定められた制度ではないため、企業によって規定はさまざまです。そのため復職する際の手続きも異なるので、休職前に復職する際の条件や必要な手続きについて確認しておくことが大切です。

 

復職の条件

PTSDの症状が改善し医師から復職許可の診断が出て、本人が復職を希望しても、最終的に復職の可否を判断するのは会社側になります。休職できる期間は企業によって異なりますが、休職期間中に症状が改善せず、復職が認められない場合には退職となる可能性もあります。復職するには、どのような条件が揃うことが必要か、どのタイミングで復職できるのかなど、休職する前に確認しておきましょう。

通常、復職するには医師の診断書が必要となりますが、診断書だけで復職が認められない場合もあります。復職には、企業が求める水準までの業務を行える必要があります。企業によっては、休職前と同じ業務が行えることを条件とする場合もあれば、短時間の軽作業から徐々に仕事に復帰するプログラムを組んでくれる場合もあります。これらの条件についても確認しておきましょう。

復職のタイミング

復職するタイミングについては、自身が仕事を戻れる状態であると自覚できるほど症状が改善して、かつ医師からも復職の許可が出ることが前提となります。十分に回復する前に、焦って復職しても症状が再発してしまうことがあります。再発すると、症状が重症化して治療にさらに時間がかかります。まずはしっかりと療養することを最優先に考えましょう。

もし回復に思ったより時間がかかった場合には、休職の期間を延長できないかどうか会社に相談してみましょう。また、「試し出勤制度(リハビリ出勤)」が認められる企業もあります。試し出勤制度とは、正式な復職を決定する前に、職場復帰の試みを開始する制度で、早期の復職に結びつけることが期待できるとされています。もし復職に不安があるようであれば、試し出勤ができないかどうか会社に相談してみましょう。

 

復職時の勤務時間

復職してすぐに休職前と同様にフルタイムで働くことが不安であれば、短時間勤務からスタートできないか会社に相談してみましょう。PTSDの症状が改善したとしても、復職直後は意外と疲れやすくストレスを感じるものです。休職や復職については、企業それぞれで条件が異なりますが、医師や会社と相談して体調を最優先に復職後の勤務時間について決めるようにしましょう。

 

復職時の業務内容

PTSDの原因となるストレスが、休職前の職場や業務内容に関係している場合には、復職することでPTSDを再発する可能性があります。そのような場合には、復職のタイミングで別な部署への異動や業務の変更を相談してみましょう。一方で初めての部署や業務、新しい人間関係はストレスとなることがあります。復職時の業務内容については、会社とよく相談してから復職をするようにしましょう。

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PTSDで退職して転職・再就職する時のポイント

PTSDの症状の原因が現在の職場に関係する場合や、復職してもPTSDの再発で仕事を続けるのが難しいと感じる場合には、現在の会社を退職して転職を目指すことも考える必要があります。転職は、人生での大きな転機で慎重に決断することが大切です。医師や会社の上司、家族などとも相談して判断するようにしましょう。では、PTSDによって転職する際のポイントについて紹介します。

 

自分にとってのストレスを把握する

転職先の職場でも、PTSDの症状の原因に関係するストレスがある場合には、症状が再発する可能性があります。そのため、症状の悪化や再発を防ぐためには、同じようなストレスを感じない職場や業務内容を選ぶことが大切です。そのため転職活動を始める前に、自分にとって何がストレスとなるのかを把握するようにしましょう。

 

条件をよく調べる

求人に応募する際には、業務内容はもちろん職場の雰囲気など、再発の可能性が少ない企業を選ぶことが大切です。すべてのストレスを避けることは難しいですが、少なくともPTSDの原因に関係するストレスを感じそうな企業の求人には、応募しないようにしましょう。求人票などの情報だけで判断が難しい場合には、企業のことをよく把握しているハローワークの担当者や支援機関の人に相談するとよいでしょう。

 

ハローワークの専門援助窓口(障害者窓口)

ハローワークは、正式な名称を公共職業安定所といい、求人紹介や就職相談を無料で行っている公的な機関です。ハローワークには、障害のある人の就職活動・転職活動を支援するために、障害についての専門的な知識を持った職員や相談員が配置された専門の窓口があります。障害者雇用だけでなく一般雇用の求人についても相談でき、障害者手帳を持っていなくても利用することができます。

人材紹介会社

人材紹介会社の中には、障害のある人の転職に特化したサービスもあります。障害があっても応募可能な求人情報を多数扱っていて、自分が希望する働きかたができる会社を見つけることが期待できます。

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PTSDのある人が就職・転職の際に使える支援・制度は?

PTSDの症状が改善しても、すぐに就職するのは不安という人もいるのではないでしょうか。そんな場合には、就職に向けたサポート受けることができる「就労移行支援」というサービスがあります。

 

就労移行支援

就労移行支援は、障害者総合支援法によって定められた「障害福祉サービス」のひとつで、一般企業への就職を目指す人への職業訓練を行います。支援内容は、就労に向けたトレーニングや職場見学や実習、就職活動のサポート、就職後の職場定着支援などで、原則最長で24か月利用することができます。

ただし、身体障害、精神障害、知的障害、発達障害などの障害のある障害者や障害者総合支援法の対象なっている難病などのある人を対象とした支援制度なため、PTSDだけでは利用することができません。しかし、PTSDはうつ病などと併発することが多いため、症状が重い場合には医師や関連施設に相談してみましょう。

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まとめ

PTSDは、うつ病や不安障害などの精神疾患を合併することが多いため、早期に医師の診察を受けて、適切な治療を行うことが大切です。

 

PTSDになると、トラウマとなった場面が何度もくり返し浮かんできたり、トラウマとなった場面に関連する悪夢に何度もうなされる、トラウマとなった時の感覚が急によみがえるなどによって、心理的な苦痛や体の激しい反応が起きて働きづらさを感じます。

 

PTSDの症状が重くなったら、医師や会社の人と相談して、療養を優先して休職することも検討してみましょう。PTSDだけでは障害手帳の対象とならないため、転職や再就職の際に、障害者向けの就職支援制度やサービスは利用できませんが、ハローワークの窓口では障害者手帳の有無に関係なく、就職の支援や求人の紹介を受けることができるので、転職で困ったことがあれば相談してみましょう。

 

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ライター:atGPLABO編集部(監修:戸田重央)

障害者専門の人材紹介として15年以上の経験とノウハウを活かし、障害者の雇用、就労をテーマとした情報発信活動を推進しています。 【監修者:戸田 重央プロフィール】 株式会社ゼネラルパートナーズ 障がい者総合研究所所長。 企業の障害者雇用コンサルタント業務に携わった後、2015年より聴覚障害専門の就労移行支援事業所「いそひと」を開所、初代施設長に。 2018年より障がい者総合研究所所長に就任。新しい障害者雇用・就労の在り方について実践的な研究や情報発信に努めている。 その知見が認められ、国会の参考人招致、新聞へのコメント、最近ではNHKでオリパラ調査で取材を受ける。 聴覚障害関連で雑誌への寄稿、講演会への登壇も多数。

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