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愛着障害の特徴と乗り越え方とは?子どもと大人で対処法は変わる?

更新日:2023年07月26日

愛着障害とは、なんらかの理由で親や養育者と子どもの間で「愛情の癒着が形成されずに、情緒面や対人関係に問題が現れてしまうこと」です。医学的、心理学的にも議論は交わされていますが、はっきりとした診断基準はありません。しかし、そうであっても学校生活や社会生活の中で対人関係に問題を抱え、自分が愛着障害ではないのかと悩む人は大勢います。そして、子どもの場合は、周りが気付いてあげる事も大切です。愛着障害は発達障害や精神疾患が複雑に絡んでくるケースもあり、その場合には専門家のサポートや治療を受ける事も必要になります。ここでは愛着障害ではないのか?愛着形成に問題があるのではないか?と感じている大人や、愛着形成が十分ではないと感じる子どもに対して、どう対処していけばいいのかも解説していきます。

愛着障害とは?

愛着障害とは文字通り、幼少期の愛着形成に問題を抱えている状態の事を指します。

 

愛着とは、幼少期に親など養育者と子どもの間に情緒的なきずなが育まれていく事です。それがなんらかの形で上手くいかず、信頼関係や親や養育者の愛情を感じられないまま大きくなってしまうと、対人関係や社会生活に問題を抱えやすくなると言われています。

 

精神科医である岡田尊司先生は、「愛着を土台に、その後の情緒的、認知的、行動的、社会的発達が進んでいくからであり、その土台の部分が不安定だと、発達にも影響が出ることになる。愛着障害が発達障害と見誤られてしまうのも、一つにはそこに原因がある。」(引用:「発達障害と呼ばないで」(幻冬舎新書))と言っています。

 

その他にも、愛着障害が他の障害や精神疾患、高血圧や過敏性大腸症候群のリスクに繋がる可能性も指摘されています。

 

例えば、心理学的な最初の愛着形成の段階は赤ちゃんの時です。子どもは産まれた時は一人で食べる事もトイレに行くこともできません。お腹が空いた時、オムツが汚れた時に赤ちゃんが泣いて訴えた時に親や養育者がミルクをくれた、オムツをきれいにしてくれたという自分の欲求を訴えた時に満たされるという繰り返しで心理的な信頼関係や愛情、きずな等が芽生えて愛着形成に至ります。これが最初の他者とのコミュニケーションになります。

 

人は、身近な親や養育者との愛着形成から、成長と共に周りの人との関わりを通して愛着を獲得していきます。この愛着関係が心の深いところに根付き、自立心や自尊心が育っていき、人間関係や社会性が発達していくと言われています。愛着形成がなんらかの理由でうまくいかずに大人になると、自立心や自尊心が低くなりやすく、他者とのコミュニケーションが取りにくくなったり、社会生活や心身の健康に影響を及ぼす可能性があるのです。

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医学的な愛着障害の特徴

愛着障害には医学的な意味もあり、先ほど説明した心理的な愛着障害とは少し異なります。医学的な愛着障害は広義的な心理学のものとは違い、かなり限定的です。

 

医学的な愛着障害は「反応性アタッチメント障害(反応性愛着障害)」と「脱抑制型対人交流愛着障害」の2つに分類されており、どちらも5歳以前に発症すると言われています。

 

反応性アタッチメント障害(反応性愛着障害)

反応性アタッチメント障害は、反応性愛着障害とも呼ばれます。人に対して過剰に警戒するタイプであり、人にうまく頼ることができません。乳幼児期に、養育者が無視や無関心、ネグレクトなどの不適切な養育を行ったことが原因であることが多いです。

 

子どもの頃、養育者に無条件に甘えることや助けてもらったことがなく、安心できる居場所がないといった経験から、どうやって誰に助けを求めればよいのか分からなくなってしまいます。

 

反応性アタッチメント障害の特徴は、次のとおりです。

 

 他人を信用できない

 恐怖心や警戒心が強い

 人の言葉に深く傷つく

 自傷行為がみられる

 嘘をつきやすい

 体調不良を起こしやすい

 ちょっとしたことで酷く落ち込む

 自己肯定感が低い

 いつも人目を気にしてビクビクしている

 感情の起伏が少ない

 謝れない

 

このように「自分の存在価値」が分からなくなり、他人を信じられず頼れない、自分や他人を攻撃する、自分の評価が低い、感情を出せないといった問題を起こしやすいと言えます。

脱却制型愛着障害(脱却制性対人交流障害)

脱制御型愛着障害は、脱制御性対人交流障害とも呼ばれます。人に対して過度に馴れ馴れしいタイプであり、無差別に人に甘えることができます。初対面の人にもかまわずべったり抱きつこうとしたり、協調性が欠落していたりと発達障害に似ているとされています。

 

特定の養育者との愛着形成がうまくできないことなどが原因となり、注意を引くために情動的な行動をする場合もあります。

 

脱制御型愛着障害の特徴は、次のとおりです。

 

 誰にでもかまわず抱きつく、馴れ馴れしい

 周りの注意を引くために大声を出す

 人によって態度を変えることはない

 落ち着きがない

 乱暴な言動がある

 わがままな言動をする

 強情で意地悪さがある

 嘘をつきやすい

 

このように、自分が示す愛着の範囲が分からず、知らない人まで広範囲に愛着を求めます。たとえば自分ではなく兄弟ばかりを期待する養育者の興味や関心を、自分に目を向けさせるために上記の行動を取ります。

 

簡単に説明すると、前者は人に対して過度な警戒をしてしまい、後者は人に対して過度に馴れ馴れしい態度をとってしまうという事です。この2つは明確な診断基準がWHO(世界保健機関)のICD-10(国際疾病分類第10版)で示されています。判断基準には本人の特徴となる行動や身体症状の他に、親や養育者との関係性が重要になってきます。

 

簡単に説明すると、前者は人に対して過度な警戒をしてしまい、後者は人に対して過度に馴れ馴れしい態度をとってしまうという事です。この2つは明確な診断基準がWHO(世界保健機関)のICD-10(国際疾病分類第10版)で示されています。判断基準には本人の特徴となる行動や身体症状の他に、親や養育者との関係性が重要になってきます。

 

幼児期の虐待や両親の離婚が原因になりやすい

親や養育者との関係の判断基準は例えば、虐待を受けていた、頻繁に親や養育者の交代があった、などです。発達段階において、愛着形成がきちんとなされているかどうかの判別がつきにくい9か月頃より前の子どもは診断できません。また、症状の特徴が発達障害や自閉症スペクトラムともよく似ているため、慎重に診断されます。

 

つまり、医学的な愛着障害は年齢的には子どもの障害とされていて、大人には当てはまりません。治療には投薬などの手法は用いられず、カウンセリングや心理療法や家族療法などを使っていきます。

 

子どもの愛着障害 

「反応性アタッチメント障害」や「脱抑制型愛着障害」に見られるように、医学的な愛着障害は子どもを対象とした障害となっています。しかし、心理学的な愛着障害と根本的な原因は変わらず、幼少期の愛着形成が上手くいかなかった事が原因とされています。2つの障害の性格的な特徴として似通っているのは、意地っ張り、強情、度がすぎたわがままである事が多いと言われています。また、健康問題や行動の特徴も似ています。

 

具体的には

・体調不良を起こしやすい(風邪を引きやすい)

・身体が周りより小さ目である

・自傷行為(髪の毛を抜く、爪を酷くかむなど)がある

・他害行為(他人をたたく、噛むなど)がある

・不眠傾向や食欲不振がある

・大人を試すような行動に出る

・理由もなく嘘をつく

 

などが共通しています。しかし、対人関係における特徴は真逆です。

 

「反応性アタッチメント障害(反応性愛着障害)」の子どもに見られる大きな特徴は、他者を警戒しすぎてしまい頼る事ができないというところです。表情がなく、笑顔が見られない、他の子どもとの交流がない等の特徴が挙げられます。この症状は自閉症スペクトラムの症状と似ていることから、愛着障害なのかどうかの判断が難しいようです。

 

「脱抑制型対人交流愛着障害」の子どもは反応性アタッチメント障害の子どもとは真逆の特徴を持っています。初対面の人にべたべたして抱っこやおんぶをせがんだり、馴れ馴れしく場にそぐわない言動をしたりといったようなことです。この特徴を持つ子どもは、ADHDとの区別がつきにくいとされています。

 

ま子どもが親や養育者を無条件で受け入れてくれる安全な場所であり、心の拠り所(安全基地)として見ていないために、親や養育者との間に通常では見られない反応がある事もあります。抱きしめられていてもそっぽを向いている、離れる時や再会の時に視線をずらして近寄る、知らない場所でも親や養育者を頼りにする素振りが無い、などです。

 

子どもは産まれてから成長していく段階で、親や養育者を心の拠り所として成長していきます。赤ちゃんの時から繰り返すお世話や、スキンシップの中で育った安心感や信頼感が親や養育者を心の拠り所にしていくのです。これを心理学では安全基地と呼び、安全基地があることで見知らぬ世界や環境にチャレンジして、成長していくための自立心や自尊心が育っていきますまた、安全基地(親や養育者)があるという無意識の安心感は、心の安定や成長に繋がっていくのです。

 

虐待を受けた子どもや、親や養育者との死別、最低限の世話はしてもらえるがコミュニケーションやスキンシップが極端に少ない家庭などに育った子どもは愛着障害を起こす確率が高いと言われています。子どもの愛着障害をそのままにしておくと、大人になってからも癒えないまま残り続けます。

大人の愛着障害

先述の通り、医学的な愛着障害の診断基準には「5歳以前」という条件があるので、大人が診断されることはありません。しかし、自分が愛着障害ではないのかと悩んでいる人は沢山います。

 

医学的な愛着障害と心理学的な愛着障害は線引きが難しく、医学的な診断だけでは区別できないところがあるからです。子ども時代の愛着障害が改善されないまま、大人になって苦しむ人や、大人になってから自分は愛着障害があるのではないかと気付く人は少なくありません。また、幼少期の愛着障害と違い大人の愛着障害では高血圧、うつ病などの病気のリスクも高くなると言われています。

大人の愛着障害の特徴

大人の愛着障害は幼少期に愛着関係が十分に形成されなかったことが原因で、大人になっても人との間に信頼や親密さを築くことが難しい状態のことを指します。

この状態では自己否定や孤独感、寂しさなどの感情が強く現れることがあります。

大人の愛着障害においての特徴を「対人関係」「情緒面」「アイデンティティの問題」に分けて解説します。

 

【対人関係】

大人の愛着障害について、対人関係における3つの特徴を以下にまとめました。

 

怒りを上手くコントロールできない

大人の愛着障害には、人間関係において適切な距離感を保つことが難しいという特徴があります。

「怒り」の感情をうまくコントロールできず、トラブルになりやすいといえるでしょう。

 

思考が極端

思考が極端で「100か0か」「白か黒か」になりやすいなど、物事に柔軟に対応することが難しいといえます。

 

過去に捉われてしまう

愛着障害がある人は自尊心が低いケースが多いため、自分の選択を信じられず、過去に捉われてしまう傾向があります。

進路や就職などに関する決断も後悔することが多く、人生の満足度が低くなりがちです。 

 

【情緒面】

大人の愛着障害には、情緒面において以下のような特徴があります。

 

適切な距離感がわからない

人間関係の程よい距離感がわからないため、極端に人の顔色を伺うなどコミュニケーションに難しさを感じる場面があるようです。

過去のトラウマや傷があるため相手に心を開きにくく、自分から積極的に他人と交流することが苦手です。

 

不安定な関係性

パートナーや子ども等の親しい人と情緒的な関係を築くことを困難に感じる傾向があります。

一度は良好な関係が築けたとしても、些細なことで相手との関係が崩れてしまうこともあり得るでしょう。

 

自尊心が低い

自尊心が低い傾向があるため、親の期待に応えられないときに必要以上に自分を責めてしまいます。

自己肯定感が低く自信が持てないといった特徴もみられます。

 

【アイデンティティの問題】 

愛着障害があると、アイデンティティの確立(自分は自分であると自覚すること)が上手くいかないことがあります。

以下に具体的な特徴を3つ、挙げてみました。

 

決断力がない

大人になると自分自身で考え、選択しなければならない場面が出てくるでしょう。

しかし、愛着障害があると自分自身で問題を解決できない場面が多く出てきます。

 

自己肯定感が低い

自己肯定感が低い傾向があるため、自分自身に対して否定的になりやすいといえます。

自分の選択に対する満足度が低いことも特徴のひとつです。

 

否定的になる

自分自身を信じることができないことから、自分を責めたり必要以上に落ちこんでしまう傾向があります。

 

また、大人の愛着障害は二次的な病気や障害に繋がってしまうケースがあります。パーソナリティ障害やうつ病、心身症、自律神経失調症などです。特にパーソナリティ障害やうつ病と診断された方の中には、幼少期の愛着形成がうまくいかなかった愛着障害が原因だったという事も珍しくありません。他にも、自分が愛着障害を抱えているために子どもをどうやって接していいのか分からなかったり、虐待をしていた親も実は愛着障害を抱える、虐待されていた子どもだったりというような、自分の子どもにも負の連鎖を引き継いでしまうことがあります。

 

負の連鎖を断ち切るためにも、きちんとした対処方法を学んだり、一人で悩むのが辛いと感じたらカウンセラーなどの専門家に相談したりする事が大切です。

愛着障害の乗り越え方・対処法

子どもの愛着障害の場合は、環境因子による部分も大きいのでまずはどのような環境に子どもがいるのかを見極める必要があります。

 

虐待を受けているかどうか、親や養育者が亡くなったという事がなかったのか等の原因を特定することです。原因によっては子どもだけではなく、その親や養育者にも問題があるケースもあります。その場合は家族療法などのアプローチや、支援も必要になってきます。

 

親や養育者自身の生活が何らかの理由で困難であり、その結果として愛着障害が現れている場合は、児童相談所などの行政にも相談しなくてはなりません。環境を整えた上で、子どもとのスキンシップの時間を増やすように心がける、しっかりと顔を合わせてコミュニケーションを取る、子どもへの声掛けを増やすようにします。子どもの愛着障害の改善には特別に難しい技術はいりません。

 

大人の愛着障害を克服していく方法としては、大きく分けて3つあります。

 

1つは子どもの頃に愛情を受けていたということを認識し直すことがあります。この方法は親や養育者と何らかの理由(亡くなったなど)で離れてしまった場合に有効です。辛い別れの前の記憶を辿っていき、愛されていた記憶を再確認するという方法です。

 

2つ目に愛情をパートナーや友達から獲得し直す方法があります。信頼できると感じる事のできる身近な人達とのコミュニケーションやスキンシップを通して、幼少期に得られなかった愛情を得ていくことです。

3つ目は自分の存在価値を認められる環境(正当な評価が下される職場など)に身を置くことです。愛着障害を抱える人は自尊心や自己評価が低い傾向にあるので、他者が自分の存在価値を認めてくれる事で大きく改善していきます。

 

大人の愛着障害の克服、子どもの愛着障害への対処法はどちらも解決しなければならない部分は同じです。愛着形成をし直し、安全基地(心の拠り所)を作りだしていきます。例えば、自尊心や自信、存在価値を自分で認めてあげられるような環境を整えたり、自分の考え方を少しずつ修正していくことで愛着障害が改善されていきます。
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まとめ

心理学的、医学的な愛着障害の特徴は大人として社会生活を営む際に大きな影響を与えます。投薬治療は行わないのですぐに治す事はできません。周りの助けを時には借りながら、ゆっくりと自分に向き合いながら治療していく必要があります。

 

愛着障害はすぐに治るものではありませんが、時間をかけて少しずつ改善していくと言われています。何をどうしたらいいのか、一人ではよく分からない、悩みを一人で抱え込んでいて困っている人は専門家に相談するのも愛着障害を克服していく第一歩になります。

 

自分や子どもが愛着障害ではないか悩んでいる人は、心理カウンセラー、精神科医、発達相談ができる地域の子育て支援課などを頼ってみるとよいでしょう。

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ライター:atGPLABO編集部(監修:戸田重央)

障害者専門の人材紹介として15年以上の経験とノウハウを活かし、障害者の雇用、就労をテーマとした情報発信活動を推進しています。 【監修者:戸田 重央プロフィール】 株式会社ゼネラルパートナーズ 障がい者総合研究所所長。 企業の障害者雇用コンサルタント業務に携わった後、2015年より聴覚障害専門の就労移行支援事業所「いそひと」を開所、初代施設長に。 2018年より障がい者総合研究所所長に就任。新しい障害者雇用・就労の在り方について実践的な研究や情報発信に努めている。 その知見が認められ、国会の参考人招致、新聞へのコメント、最近ではNHKでオリパラ調査で取材を受ける。 聴覚障害関連で雑誌への寄稿、講演会への登壇も多数。

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